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EP22「掴んだ追い風」

 -時刻不明 新防衛政府本部 収容所-

 陽華高校での戦闘の末、俺はディスペリオンを押収され、新防衛政府の豚小屋へと連れてこられた。
話をする間もなく、俺は警備員らしき男たち2人に腕をつかまれ、牢屋の中へと入れられた。

静流「意外だな。」

 突然、隣の牢から声がした。

レドナ「悪いな、期待に添えなくて。」

 きっと2人しか居ないこの牢獄。あまり大きな声で話していないのに、お互いの声が良く聞こえた。

静流「お前がここに来ると言うことは、誰かをかばったな。」
レドナ「御名答。俺の犠牲で世界が変わってくれたら、安いものだ。」
静流「どういう意味だ?」
レドナ「珍しく話しに食いついてくるな。」
静流「俺もずっと黙っておくのは好きじゃない。」

 神崎が鼻で笑う。

レドナ「奴等が現れたとき、ちょうど高田の妹と彼女に全てを話そうとしている時だった。
    今頃は鈴山が2人に真実を教えてくれているはずだ。」
静流「なるほど。身内から攻めていく手を使ったか。」
レドナ「ちょっと待てよ、悪魔で2人からの自発的な願いだ。
    俺は訊かれなければ、教える事もなかった。」

 一通り話し終えたところで、会話が無くなった。何とか話題を探してみる。

レドナ「そういえば、司令たちは?」
静流「さぁな。きっと厳重に監視された中にいるだろう。」
レドナ「死刑とかになってないといいな。」
静流「あぁ、そうだな・・・。」


 EP22「掴んだ追い風」


 -同刻 千葉県 某所喫茶店-

かりん「佑作、聞いた?」
佑作「夜城が捕まったって・・・話ですか・・・。」

 俺は桜さんに呼ばれて、指定された喫茶店に来た。もしかしたら俺たちも捕まるかもしれない。
何かあった場合の対策を考えようという提案だった。
 向こうは本気かもしれないが、俺にとっては桜さんと二人きりになれるいいチャンスだ、なんて事を考えていた。

かりん「結衣にも連絡してみたんだけど、繋がらないし。
    もしかしたら政府野朗の罠かもしんないし。」
佑作「そんな・・・。」
かりん「ただ一つ、気になってることがあんのよね。」

 桜さんはデコレーションシールをいっぱいはったピンクの携帯を開けたり閉めたりしながら呟いた。

かりん「暁と輝咲が隠れてるし、隠れてる場所をはけって拷問されてたりぃ・・・。」
佑作「っ!?」

 その言葉に俺の心臓が大きく鼓動した。

かりん「ま、法の下に働いてんなら、そんな事はないだろうけど・・・。」
佑作「そ、そうですよね。」

 そんな事があるほどなら、俺は命を賭けてでも桜さんを守りたい。そう思っている自分がいた。

かりん「う~ん、せめて逃げ場所作っておかないとね。」
佑作「その・・・。」
かりん「ん?」

 俺は意を決して言った。

佑作「俺、何があっても桜さんを守ります!」
かりん「・・・・はぁ?」

 真剣に言ったつもりだが、桜さんはきょとんとしていた。

かりん「年下に守ってもらうほど、アタシは弱くないっつーの。」
佑作「べ、別に桜さんが弱いとか、そんなんじゃなくて・・・。」

 自分の顔が赤くなっていくのが分かる。タイミング的にもこんな事を言える場合じゃないのに。

かりん「分かってるよ。
    ちょーっとだけ、嬉しかったよ。佑作。」

 人差し指と親指で少しの間を作って笑った。


 -PM10:23 新防衛政府本部 特別取調室-

隆昭「もうそろそろ、はいてくれてもよろしいのでは?」

 50前後の大人2人だけの部屋は、窮屈そのものだった。
机と椅子以外何も無い真っ白な部屋に、私はずっと監禁されていた。

剛士郎「言ったはず。私は本当に鳳覇君と榊君がどこにいるのか分からない。」
隆昭「では、彼らが貴方を置いて勝手に逃げたのですか?」
剛士郎「そうだと私は思う。
    鳳覇君や榊君も、まだ幼い少年少女だ。」
隆昭「悪魔でしらを切るおつもりなら、私達にも考えがありますが・・・。」

 隆昭が指をパチンと鳴らすと、部屋のドアが開き、怪しげな機械を持った男2人が入ってきた。

剛士郎「法の下で、新防衛政府は動いているのでは?」
隆昭「誰も気付きやしませんよ。
   素直に居場所を教えてくれるのであれば、貴方の体に電気を流さずに済むのですが。」

 運ばれてきた黒い箱の様な機械から伸びるコードを、私の腕に当てて固定した。
男の一人がスイッチらしきものを入れた途端、私は気を失いそうなほどの一瞬の痛みを味わった。

剛士郎「ぐっ・・・。もう少し老人をいたわって欲しいものだ。」
隆昭「まだこれでは終わりませんよ。くっくっく・・・。」
剛士郎「ぬっ!ぐあぁぁっ!!」




 -2019年 PM07:12 8/10 新防衛政府海上基地 休憩室-

 ARSによる自作自演のテロ行為から半年、俺たちの住む世界は平和を取り戻していた。
あれからARSの残存勢力の反抗も無く、リネクサスも姿を現すことも無かった。
本当に何も無い、平和な毎日だ。そんな時、椅子に深く腰掛けて目を瞑っている俺に声を掛けてくる女性がいた。

優子「高田准尉。」

 パッと目を開け、俺はすぐに立ち上がって敬礼をした。

真「あ、青葉中尉!何でしょうかっ!」
優子「先日から配備される事となった量産型セイヴァーのテストを、本日20:00時より開始します。
   時間前にハンガーに来てください。」
真「了解しましたっ!」

 俺の目の前を去っていく青葉中尉に、再び敬礼をした。

真「量産型のセイヴァーか・・・。」

 俺は以前の戦いで使っている専用のセイヴァーが与えられている。他にも青葉中尉のセイヴァーと他3機が存在する。
こいつらを先行量産型として、また新たにコストを下げた正式な量産型が完成したようだ。
今となっては必要ない気もするが、政府は奴の存在を気にしているらしい。
俺を目標としてくれて、俺も目標にしたアイツを。
 俺はアイツと一緒に戦う事を目的に、この新防衛政府に入った。でも、真実は違った。
アイツらは裏でリネクサスと手を組んでやがった。初めにこの事を石田長官から聞いたとき、俺は信じることができなかった。
初めて俺のセイヴァーでARSに行った時も、俺はアイツの味方をするつもりでいた。
 でも、本当にリネクサスはARSと一緒に手を貸し、俺たちの妨げをした。
悔しかった。この事実を飲み込みたくなかった。アイツとは一生親友でいたかった。
 アイツは今でも逃亡を続けているらしい。半年経ってもアイツの手がかりは一向に掴めていない。
ただ、アイツが乗っていた魔神機"エイオス"は、俺たちの監視下にある。
ドライヴァーが使えるサモンをさせないために、ARSから奪った機体は全て凍結させてある。
サモンされる機体は、サモンされる前と同じ状態を保つことから、サモンされたとしても凍結状態で動かすことができないらしい。
仮に凍結が失敗だったとしても、メカニックの鳳覇 茜さんがウィルスを仕込んでいるし、武装の再弱化も図ってある。
 以前に俺が夜城のディスペリオンと戦ったときも、このお陰で俺が優位に戦えることができた。
結果としては、妹を救えることができた。俺は兄としてすべき事を果たせたんだ。ただ一つを除いては。

真「くそっ。」

 俺は拳で座っていた椅子を殴った。
 妹はアイツの事を好きだった。悔しいけど、俺を差し置いても。
それほど妹が愛した人なら、俺もアイツとの恋を応援してやろうと、いつもいつも思っていた。
それでもアイツはそれを裏切った。妹の気持ちを踏みにじりやがった。俺はアイツを一発殴ってやらないと気がすまない。
いや、むしろこの手でアイツを葬ってやる。俺の決意は揺るがない。
 思い出した怒りに奥歯をかみ締め、俺はゆっくりとハンガーへと向った。


 -同刻 新防衛政府海上基地 特別収容所-

剛士郎「そろそろか・・・。」

 突然吉良司令が呟きだした。

レドナ「何が、そろそろなんだ?」

 反対側の牢にいる吉良司令に尋ねた。

剛士郎「いや、あれからもう半年近く経つのかと思うと、遅すぎる気がしてね。
    もう1年経った感じがするのだよ。」

 司令の言うとおり、もう俺たちが捕まって半年になる。牢の中は窮屈ではないが、退屈だった。
鎖などで拘束はされてないため、ベッドとトイレ以外何も無いこの空間で運動をすることは可能だった。
にしても、それも限界がある。日の光すら浴びていない。与えられているのは、電気の光と食事だけだ。
 消灯時間は決まっているものの、さすがに時間感覚が狂い始めている。

レドナ「で・・・。」
静流「本当は、何が起こる?」

 俺が訊こうとしたことを、神崎が代弁した。時間感覚の狂いはとっくに前からだ。
なのに、今その返答をした司令の裏には何か意味が含まれている。

剛士郎「ははっ、バレていたか。ま、今に分かるだろう。
    きっと奴が来るはずさ。」


 -PM08:00 新防衛政府海上基地 ハンガー-

 時刻はちょうど8時、しかし量産型セイヴァーのテストについては5分前に行われていた。
操作方法は従来のセイヴァーと同じなので、俺と青葉中尉とでの機動テストとなっている。
オペレーターからの指示が来て、俺はセイヴァーを基地の外へと出した。
 まだ8時なのに、空は若干明るかった。

優子「准尉、稼働率はどうですか?」

 ボタンを押して、各部の状態を確認する。

真「はい、大丈夫です。」
優子「それでは、戦闘を開始します。」
通信士「青葉中尉、高田准尉、すぐにハンガーに機体を戻してください。」

 オペレーターからの通信。その声には少し焦りが見えた。

優子「どうしたんですか?」
通信士「付近に未確認の機影を確認しました。
    ただちに2人は自機に乗り換え、出撃してください。」
真「了解!」

 セイヴァーを再びハンガーに戻し、俺の愛機である金色のセイヴァーへと乗り換えた。
椅子の確度や、細かいところが俺にぴったりなので、量産型よりも格段に乗りやすかった。

優子「准尉、敵機は機神の様です。
   万が一に備えて、サンクチュアリ・ブラスターを装備して出撃してください。」
真「了解っす!」

 俺のセイヴァーの横に置かれてある、砲身の長い大きいサンクチュアリ・ブラスターを手に持った。
ブラスターを背中に取り付け、ゆっくりとハンガーを出た。
 機神、その言葉に俺の怒りは頂点に達した。

優子「セイヴァー、青葉 優子、出ます。」
真「高田 真、セイヴァー行くぜっ!」

 2機のセイヴァーが基地を飛び立ち、コクピット正面にモニタリングされている目標地点へと向った。
その時、一線のビームが向こう側から放たれた。

真「うぉっ!?」
優子「先手を打たれましたか。」

 振り返ると、基地の騎神の着陸上に穴が開いていた。

ナーザ「作戦を開始する。」
真「その声!あの時の野朗かっ!」

 以前撃墜したデカブツに乗っていた奴と同じ声だ。肉眼で確認できた敵機の姿は、あのデカブツとカラーリングが同じだった。

光輝「こっちも忘れてもらっては困る!」

 高速で接近してくる戦闘機。その上面から放たれる無数のコード。左手に腰に装備したアサルトライフルを装備し、コードに乱射した。

優子「リネクサスですか。」
エルゼ「新防衛政府の諸君、久しぶりだな。」

 リネクサスのボスキャラみたいな奴が、セイヴァーの通信画面を強制的に開いた。きっと全ての通信画面をハッキングしているのだろう。

エルゼ「この半年間のブランク、我々の体制を整えるのに有効活用させてもらったぞ。
    我々がARSに手を貸したように見せかけ、戦火の矛先を変えたことは布石に過ぎぬ。」
真「まさか、ARSとリネクサスがグルってのは嘘だったのか!?」

 この男の言葉に、俺の体が震えた。

エルゼ「なあ、石田 隆昭。我々はお前の夢を叶えたのだ。」
隆昭「な、何を言っている!?」
エルゼ「政府は優秀なARSに投資する事を拒まなかった。
    だが金の亡者であるお前は、それが憎くてたまらなかったのだろう?」
真「石田長官!本当なんですかっ!?」

 俺の頭の中がパニック状態だった。

エルゼ「さぁ、半年もお前に猶予を与えたのだ。
    今度は我々の夢を叶えさせていただこう。」

 リネクサスからの通信が切れた。石田長官は無言のままだった。

優子「准尉、とにかく今はリネクサスを倒しましょう。」
真「り、了解!」

 大きく頭を振り、さっきの事を忘れようとした。レバーを握り、ロックオンしている戦闘機を追う。

光輝「新装備のリデンスキャフトのテストには持って来いの相手だな。」
真「俺のセイヴァーを甘く見んなよ!」

 ライフルを構え、弾丸を放つ。リデンスキャフトは回転しながら弾を全て回避する。
真上に上がったところで一旦停止し、戦闘機の形が崩れ、それは人型へと変わった。

真「変形した!?」
光輝「接近戦の腕はどうかな?」

 異様な長さを持つ両腕からビームの刃が現れる。急いで背中に装備しているヒートブレードを構え、その刃を出した。
左手に握ったライフルを腰にマウントし、ヒートブレードを両手で握る。

真「んなろぉっ!!」

 ブーストを最大加速させ、真上から接近してくるリデンスキャフトに切りかかった。
腕のビームの刃と、ヒートブレードの刃の鍔迫り合い。眩い光が刃と刃の間で生まれた。

光輝「両手が塞がっているぞ!」

 リデンスキャフトの背中から多数のコードが出てくる。

真「読めてんだよ!」

 ヒートブレードを手放し、リデンスキャフトの腹部に両足で蹴りを入れる。反動と重力で落下する俺のセイヴァー。
重力加速度と蹴ったときの押し返しの力とで、落下速度はコードの追ってくる速さを上回った。
その間に背中に装備しているサンクチュアリ・ブラスターを構える。

真「喰らえっ!サンクチュアリ・ブラスタァーッ!!」

 長い砲身から放たれる光、一直線に目の前にあるコードを全てを消し去った。

光輝「これがヘカントケイルを落とした兵器か。」

 怯んでいるリデンスキャフトを他所に、俺は青葉中尉の援護へと向った。
その時、基地から通信が入る。

通信士「青葉中尉、高田准尉、6時の方角より高速で接近してくる機影があります。
    速度はマッハ5です。」
優子「マッハ5!?」
真「くそっ、まだお前等の仲間が来るのかよ!」

 さすがに3対2では分が悪い事が感覚で分かっていた。相手は決して雑魚ではない。

光輝「ナーザ、そっちでは確認できているか?」
ナーザ「あぁ。だが、こちらにはデータが無い。」

 宙に浮いている4機は交戦を中止し、静止して近づいてくるマッハ5の怪物を待った。
すぐにその機体の反応はセイヴァーのレーダーにも映った。
 残りの距離が物凄い勢いで縮まっていく。気付いたときには、機影は真下にあった。

真「来たかっ!」

 真下に向ってサンクチュアリ・ブラスターを放った。水しぶきが巻き起こる。

ナーザ「未確認機の存在は厄介だ。こちらも迎撃する。」

 デカブツの奴が乗っていた機神も、自前の特大ビームカノンで俺と同じく海面にビームをぶつけた。

真「やったか・・・?」

 再び始まる沈黙。2発の攻撃を受けた海面は大きな波が立っている。その下にいるであろう未確認機。
それがついに姿を現した。漆黒の装甲をした巨大な敵。セイヴァーの1.5倍はある。
 それよりも先に、先ほどの攻撃が一切効いていない様子だった。

真「だ、誰だ!お前は!」

 漆黒の姿、尖った頭にバーニアで出来ている足、背中には5枚の翼がある。人型とは言いづらい様子だった。
こういう謎の奴は大抵この型の質問に答えることはないだろうと思ってはいたが、一応訊いてみた。

VI「我が名はBLACK-VI(ブラックシックス)、貴様達を排除する。」

 ヘリウムを吸ったような奇妙な声でそいつは答えた。

光輝「ナーザ、やるか?」
ナーザ「命令は新防衛政府の襲撃だけだ。
    イレギュラーが発生した場合は帰還せよ、それが命令だ。」
光輝「了解だ。」

 リネクサスの2機は、すぐに撤退して行った。

真「ったく、厄介者は俺たち回しかよ!」
優子「准尉、迎撃します。」

 青葉中尉のセイヴァーがライフルを連射して、漆黒の機体へと接近した。

真「一気に片付けてやるぜ!」

 サンクチュアリ・ブラスターを構え、VIと名乗った機体に砲身を向ける。
すると、モニターから瞬時にそいつの姿が消えた。

優子「消えた!?」
VI「ここだ。」

 いつのまにか、漆黒の機体は真上にいた。両肩の丸い装甲がスライドし、中からビームの発射口が現れる。
青黒いビームが一瞬にして放たれる。回避しようとするが、間に合わずして右足が爆発した。
青葉中尉のセイヴァーも左腕を失くしている。

陽子「大丈夫かっ?」

 俺たちの後方に、マタドールと他のセイヴァーの姿が映った。青葉大尉らの援軍が来てくれたようだ。
すぐにマタドールは背中のキャノンでVIの機体に向ってビームを放った。

真「もう一度だ!」

 サンクチュアリ・ブラスターを構え、VIの機体をロックオンする。同時に引き金を引き、全てを消し去る光が放たれた。

VI「Sフィールド展開。」

 マタドールの攻撃と、サンクチュアリ・ブラスターの攻撃が相殺される。

陽子「何ぃっ!?」
真「マジかよ・・・!」

 周囲に煙を纏い、微動だにせずそこにいる漆黒の機体。

VI「全セイヴァーパイロット、並びに新防衛政府の皆に告ぐ。
  投降する者は危害を加えない。抗う者には然るべき罪を――。」
陽子「そういうの、イチイチうぜぇんだよ!」

 マタドールが先行し、両腕のハンマーを漆黒の機体に叩き付けた。

VI「お前の知能は猿以下か。」

 ハンマーが当たる寸前で、漆黒の機体の両肩からビームが放たれた。
ハンマーは勿論、マタドールの両腕が一瞬にして消え去った。

陽子「っー!?」
VI「大人しく従え、塵は積もっても所詮塵に変わりない。」
真「てっめぇぇっ!!」

 こういう上から目線の奴は大嫌いだ。ますます俺の怒りがこみあがってくる。

優子「准尉、あまり出過ぎないでください!」

 中尉の命令を無視して、俺は残り一本のヒートブレードを装備した。すると、漆黒の機体の装甲の内側から腕が出てくる。
その手がヒートブレードの刃を握り締めた。高温の刃にも関わらず、その機体の手は少しもダメージを受けていない。

VI「お前は何のために戦っている?」
真「何が言いたい!!」
VI「お前はその場の感情に流されやすい、ついさっきの迷いも既に消えている。」
真「っ!?」

 そうだ、石田長官がリネクサスとつるんでいた事。完全にさっきの戦いの中で忘れていた。

真「石田長官!どうなんですか!!」
VI「訊いても無駄だ、奴はすでに逃げている。」
真「何だって!?」

 俺は向けたままのヒートブレードを漆黒の機体から離した。

真「なぁ・・・、リネクサスが言っていた事ってのは本当なのか・・・?」
VI「ARSか、防衛政府に直接聞いてみるといい。」
真「教えやがれ!!お前は知ってるんだろ!BLACK-VI!!」

 俺はサンクチュアリ・ブラスターの砲身を漆黒の機体に向けた。

VI「じゃあ、我が嘘をついた場合、お前はそれを鵜呑みにするのか?」
真「ごちゃごちゃうるせぇっ!!どうなんだっ!!」

 砲身をコクピットがあるであろうクリアレンズのある部分に突き刺した。
さっきのバリアフィールドを使うにしろ、この距離だと回避も防御も不可能だ。

VI「我は答えない。だが、我はお前が思っていたとおりの事をする。」
真「俺が思っていたこと・・・?」
VI「そう、お前は目の前に突きつけられた偽りの事実に翻弄された。」

 その時、銃声が鳴った。

優子「准尉、惑わされてはいけません!」

 中尉のセイヴァーがアサルトライフルを構え、漆黒の機体に接近した。

VI「物分りの悪い奴らだ・・・。」

 一瞬の隙を突いて、漆黒の機体がサンクチュアリ・ブラスターをへし折った。そのまま猛スピードで空へと上がった。
そのまま大きな弧を描き、中尉のセイヴァーに向って両肩のビームを放った。

優子「きゃぁぁぁぁっ!!」

 頭部と腰とに命中し、コクピットブロックと右手だけ残ったセイヴァーが海面に叩きつけられた。

真「中尉!!」

 急いで海面に向って、中尉のコクピットブロックを回収しようとする。

VI「その翻弄された故に犯した過ち、それを我が繰り返す・・・!!」

 漆黒の機体がさっきとは全く違う動きをし始めた。援護のセイヴァーが放つ弾丸を物凄い勢いで回避していく。
回避しつつも俊敏な左右の動きで一機のセイヴァーに近寄った。そして両肩を掴み、再び弾丸を回避しながら空を舞った。
も一機に近づくと、掴んでいたセイヴァーを投げつけ、両肩のビームを浴びせた。
爆発は無かったが、2機とも煙を上げて海面へと落ちていった。
 残りの一機には、いつの間にか装備していた両腕のライフルで後部バーニアを破壊され、航空能力を失って海面に向った。

VI「お前も、我に刃向かうか・・・?」
真「くっ・・・。」

 十秒も経たないうちに4機のセイヴァーを全て戦闘不能にするこの化け物。いや、悪魔と呼ぶほうが相応しいかもしれない。
俺の心の片隅に恐怖が生まれてきていた。

VI「過ちの根源は過去にある。今のお前と重ね合わせたとき、それが分かるはずだ。」

 その言葉を残し、VIの漆黒の機体は測定しなくともマッハレベルであろうスピードで遥か彼方へ消えていった。

真「過ちの根源・・・今の俺・・・?」

 俺には何のことかさっぱり分からなかった。重ねるといっても、今の俺といつの俺を重ねればいいのか。
きっと重ねるという言葉にも裏の意味があるはず。正体は分からなかったが、今のVIとかいう奴ならそういう事で言ったに違いない。

通信士「高田准尉、敵機影は完全にロストしました。
    各機の回収をお願いします。」
真「り、了解・・・。」


 -PM11:25 新防衛政府海上基地 自室-

 戦闘の後、俺はずっとVIが言っていた言葉の意味を考えていた。ベッドの上に転がり、天壌を見つめながら。

真「今の俺・・・。」

 あの時、俺は何を思っていたのか。漆黒の機体に対する怒り。そんなものじゃない。
VIの正体を知りたいという気持ち。これが大きなウェイトを占めていたが、これをどこ過去と重ねればいいのやら。
きっと答えは違うはず。一旦全てを整理してみよう。
 VIが現れた後、俺は確かに怒りに満ちていた。その後の会話で俺は疑問を感じた。そして最後に――。

真「強さへの・・・恐怖・・・!」

 あの時、俺は恐怖を感じていた。根拠は無いが、これが答えだと勘が怒鳴っている。

真「そして、過ちの根源・・・。」

 これについても、俺は冷静になって考えた。俺が新防衛政府に入る前から順に思い出していく。
俺は世界を守るために、バリケード部隊の隊員募集に志願した。その時は付き合い始めていた小夜から止められた。
でも俺は小夜を守るためにも、内緒で入った。
 その後、志願者だけ防衛政府基地に呼ばれて、俺も呼び出されて向った。
そこで俺は石田長官に特別に呼ばれて、騎神のテストパイロットの話を持ちかけられた。

真「いや、まだ重ねるのはここじゃない。」

 この時の俺は本気で何かを守るという気持ちで動いていた。
 テストパイロットになって俺はどうした。メカニックスタッフからセイヴァーの動かし方を学んだ。
身体能力テストや、メディカルチェックも沢山受けた。
 すべてに合格した俺は、石田長官からARSがリネクサスと手を組んでいる事を聞いた。

真「・・・まさか!!」

 俺は何故あの時疑う事をしなかった?鵜呑みにしたわけではないが、抱いた疑いの量は少なかった。
それよりも、強い怒りが湧いてきた。アイツを討つ事への恐怖は一切無かった。

真「何で俺は疑わなかったんだ・・・!!」

 右手で拳を作り、思いっきりベッドを叩いた。そして、必死に疑わなかった理由を探した。
そして、冴えない頭で一つの考えが浮かんだ。

 疑うことが出来なかったら――。

真「・・・そうか、分かったぞ!!」

 俺には思い当たる点が一つあった。というよりも、あの時から俺には恐怖や疑問を大きく気にかける事が無かった。
もし俺が考えているとおり、あの時の"あれ"が原因だとしたら。
 いてもたっても居られなくなった俺は、考えの真実を探りに、すぐに行動に移した。
急いでベッドから降り、制服を着た。部屋を出て、基地の廊下を疾走する。
 今日は後味の悪い日になりそうだったが、なんとかそれは回避できた。


 -EP22 END-


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